【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
「恋慕の情というのは、最も利用しやすい感情なのだよ。私は長年の経験で知っているんだ」
艶やかに笑う彼女に、言葉が出てこない。
何を、言っているのか。理解できなかった。
理解したくもない。
分からない。
だって、まだ心の中では有明様は違うと願ってるから。
こんなことして欲しくないって、だって、有明様の笑顔は。
何を考えてもぐちゃぐちゃになる。
「まあ、妖怪なんぞに利用する以外の需要があればの話だが。少しすればもう駄目だ。あれは使えないな。やはり利用するのなら水無月、お前のような強者が良い。面白いからな」
「煩い、ババア。露李の耳が腐る、ヘドが出そうな声を出すんじゃない」
ギリギリと音がしそうなほど歯を食い縛り、水無月が有明を睨みつける。
有明は水無月に目も合わせず、露李を見つめていた。
「あの妖怪はな、露李姫の母親─ではないか。あの愚かな巫女に惚れていたのだぞ。それを実の娘に殺されたとあっては、どう思うかと思ったのだ。まあ、実の娘ですらないが。予想以上に憎んでくれてな。ちと嫉妬心と恨みを強くすれば、すぐにああなってしまった」
もう、無駄なんだ。この人に何を言っても。
再度、露李にそう思わせるのには十分だった。
しかし露李の見開かれた目が、驚きを隠せないでいた。
──これは、有明様じゃない。
現実逃避ではない。
ただ─彼女自身が、悲しみに塗れているようで。
だけど。
「酷い」
「何がかな、露李姫?それは何に対しての感想だ?」
「そんなの、秀水さんに酷すぎる!」
そう叫んだ。
彼だって、あんな風になりたかったはずはないのに。
「勝手な情だな、それは。私がああなれと命じた訳ではない。嫉妬心を強めただけであって、下級化するのは妖怪の運命ぞ」
「分かってたんでしょう!?」
「ああ、そうだとも。だが殺したのは露李姫、君だ」
はっとまた目を見開き、唇を噛んだ。
「殺してやいないわ。邪気を、払ったのよ…」
分かっている。
あれだけ邪気に塗れてしまえば、払った末に行き着くのは死だと。
有明は苦しそうに顔を歪める露李を眺め、今度は感心したような表情を浮かべた。
「甘いな。本当に。だから嫌なんだ─いやしかし、さすが生粋の鬼だな。水無月と露李姫では、まだ私の術が効かないと見える」