【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

さっと露李の上に陰がさした。


「委員長……?」


見上げると、熱を帯びた瞳が露李を捕まえる。

不思議と見入ってしまうような瞳をして、委員長が露李を見つめていた。


「好きだ。神影さん、僕は君が…」


囚われたら、もう戻れない。

そう思わせるような声で囁くのだ。


「委員長、私…」


段々と彼の端正な顔が近づいてくる。

距離がゼロになる───。



「やっぱり、おかしいと思っていたの」


凛とした声が張り詰めた空気の中に響いた。


「…神影さん?」


「とぼけないで。私に幻術をかけようとしておきながら、よくそんな平然としていられるわね」


委員長が困り笑顔で首をかしげた。


「ごめん、何を話しているの?」


「そうまでして逸らそうとするなら、良いわ。単刀直入に言うけれど、貴方──人間じゃないわね?」


委員長の顔が固まる。


「何が言いたいのかな」


「それは貴方が一番分かってるんじゃない?貴方、誰なの?」


ずっとおかしいと思っていた。

クラスメイトに聞いても、委員長の情報は殆ど出てこない。

というより、彼の“設定”ばかりが語られるのだ。


真面目で優しく、勉強ができて、運動もなかなか、クラスをまとめるリーダー。


そういった印象は語られても、それに繋がる“思い出”は誰の口からも聞かなかった。

第一印象なら一目見ただけで言うことができるが、内面的な特徴は記憶に基づいて形成されるものだ。


一言でいうなら、彼の情報だけが“薄っぺらかった”。


「皆に記憶を植えつけたは良いけれど、違和感でしかなかった。それに貴方はこの街にずっといたような顔をして、殆ど何も知らないみたいだったわ。この場所だって」


ここは冬こそこうして人がいないが、秋は人通りも多くこの近辺に住む者が最も使う待ち合わせ場所だ。



「───はあ、さすがですね。風花姫」



不意に委員長の笑みが歪められる。


「やっぱり知ってるのね。誰かの指示?それとも貴方の独断なのかしら」 


わざわざ溶け込むなどと、どこか組織めいている。


「それを教える必要はない。まあ、一つ言うなら─僕は君の敵になり得る」


「敵?」


「この世界が滅びること、それが僕の願いだ。そのために必要なんだよ──何かは分かるよね?」


「世界を滅ぼすなんて、貴方が決めることではないわ」


露李の周りに気が満ち始めた。

金銀の光の粒が舞う。


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