brass band
『はな?』
扉の向こうから声がする。
『なに?』
きっと兄だろう。
いくら性格がひねくれていても、ってこんな言い方失礼だろうけど、兄は、どんなに変わっても私にとってただ1人の兄で、兄にとってもきっとそうだと思う。じゃなかったら、どうしてこんなにも名前を呼ぶ声が優しいのだろうか。
『夕飯だって』
『わかった』
当たり障りない会話。
周りから見たら愛のない家庭だとか言われるだろう。親がどうかなんて知らないけれど、私は、いや兄と私は少なからず愛を共有していると思う。
私達兄妹のことは、私達しか知らないってことだ。
悲しいくらい愛情に飢えていた私達。守れるのは自分だけだったのだから。
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