【超短編 16】彼女としゃっくりと噂話
 大学受験間際に中学校のクラス会があり、熊上理沙の噂を聞いた。
 年上の男と付き合って2度妊娠し、2度堕胎したということだった。
 その話にショックを受ける同級生の男たちが多い中、幼稚園の頃のイメージが根強かった私には思いの他すんなりと受け入れられるエピソードだった。
 成人式に熊耳理沙は出席せずやはり似たような噂を聞くだけに至った。
 美人はそれだけ噂に絶えないということだろうか。
 それから東京に出た私は地元に帰るたび彼女の噂を聞くことだけは出来た。
 海外に移住したとか、どこかの青年実業家の心を射止めたとか、雑誌のモデルになったとか、もうすぐ100歳になる老人と婚約して遺産を狙っているだとか、その殆どがいい加減でろくでもないものだったが、それでも熊耳理沙の話を聞くことは帰省したときの私にとって楽しみの一つだった。
 一番新しい噂では銀座でホステスのママをやっているらしい。
 もしかしたら、偶然の再会なんて事があるかもしれないと妄想を膨らませてみたりもしたが、私と彼女がまともに関わっていたのは幼稚園のときだけだったので、きっと会話にすぐ詰まることだろう。
 その場でしゃっくりをし始めたら、今の熊耳理沙はキスをしてくれるだろうか。
 きっとしてくれないだろう。
 あの時しゃっくりは全然止まらなかったのだ。
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