0の可能性

いつもどおり歩いていると電車出発時間ギリギリになってしまうので、小走りする。

ショーウィンドウにクインを持っている自分が写るのを見て、にまにまするのがこのバックを手に入れてからの日課である。

夜雨だったからか、今は曇り空。
折りたたみ傘をバックに忍ばせて、駅に向かって颯爽と小走りを続ける。

“ 駆け込み乗車はお止めくださいー”

という駅員のアナウンスが入る。
ギュウギュウに押し込められた車内の空気は少し蒸し暑かった。

会社に通勤するのにこの電車を使っているが、未だ座席にたどり着いたことはなく、優先席近くの吊革と手すりが安定地となっている。

揺られること45分。
会社前の駅に着いた。

「晴れ間が広がってまいりました。昨夜の雨でまだ一部お足元の悪いところもございますが、この先も気をつけて行ってらっしゃいませ」

車掌さんの気の利いた一言のおかげで窓の外の風景がいつもとは違って見え、通勤も楽しく感じられそう。

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