溺れる蝶
夢と現実の狭間で。

「これ、よかったらどーぞ」



弥生が持ってきた盆にはチーズケーキと紅茶が3人分乗っていた。




「翡翠と弥生はチーズケーキとかの洋菓子も食べるの?」
「食べるっすよ。このチーズケーキは有名店のだからきっと美味しいっすよ〜

俺が3時間並んでGETした!」




カミサマと妖がチーズケーキ、食べるんだ……。


あまりのギャップに驚くばかり。




「しかも並んだ…って、人間の街に出たりするんだね」
「気分転換に出るっすよ?耳引っ込ませたら人間とそんな変わらないし。
それに……人間は、何百年経っても興味が尽きないから」



そう言った弥生は、人間を愛しんでいるように見えた。



これは私の推測に過ぎないけれど、弥生は過去に少なからず人間と関わりがあったのだろう。


只、彼があまりにも物哀しい顔をするから、深く尋ねないことにした。



「ふーん、私にはよくわかんないや」



何も気付かないフリをしてチーズケーキを口に運ぶ。



翡翠は私と弥生が駄弁っている間、スヤスヤと寝息を立て眠っている。



結局、盆には1人分のチーズケーキと紅茶が余ったままだった。




「で、桜子はなんで今日ここに来たんすか?」
「…え?………なんか翡翠に無理矢理連れてこられた」



途端に弥生が吹き出す。



「無理矢理っすか!……それは大変だったっすね〜〜」





私は″桜の花″の呪いについても弥生に話した。





「今まで幽霊や妖に付きまとわれてて…でも、翡翠のおかげでぱったり無くなったの」




桜の花の痣を見せると弥生はうんうん、と頷いて聞いてくれた。



そしてまた、翡翠と同じように私の首筋に顔を寄せる。



「……確かに、桜子の生気は美味そうな香りがするっすね〜〜、幽霊や妖に狙われるはずっすよ」
「……え、ちょ……は、早く離れて下さいぃ……」



至近距離にこんなイケメンがいたら誰だって焦る。



「ああ、ごめん!獣だから、つい何でも嗅いじゃうんすよね〜〜」




だいだいこんな和やかな雰囲気で弥生と話していたけど、翡翠は最後まで目覚めなかった。



「あ、すっかり忘れてたっす。」
「??」
「ここは日が暮れないんすよ。今頃、向こうの世界はー……、午後9時??ぐらいっすね」



それをきいて私はビックリ。

弥生の術で速攻で帰してくれることになった。


別れる間際、桜の花がチェーンの先に下がった綺麗な首飾りを弥生から渡された。




「……これ、翡翠様から。今日はこれを渡すつもりでここに呼んだんすよ。

当の本人は寝ちゃってるけど……」




弥生は主人の方を見て苦笑い。





「…何で私にこんな立派な物を…?」







私が不思議に思ってきくと、弥生はフフッと優しく笑って、こう言った。








「…………よく、思い出してごらんなさい」








弥生の温かい手が私の額に当てられ、その瞬間白い光が差した。







「桜子、またね」






深く何処かに落ちていく意識の中、弥生の声が聞こえた。

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