くるまのなかで
懐かしい感覚に目を閉じたとき、やっと私はそれがキスだと気づいた。
奏太から流れ込んでくる体温が、私の全身を巡る。
驚いて、嬉しくて、愛しくて、幸せで……。
一気に放出された様々な感情が抑えられず、心が壊れそう。
壊れたところから私の気持ちの全てが外に出て行ってしまうのではないかと怖くなる。
奏太がいったん唇を放し、何かを確かめるように視線を合わせた。
今までに見たことがないくらい色っぽい顔をしている。
10代の頃にはなかった“大人の色気”が、さっき感じたはずの懐かしさを消していく。
これは思い出なんかじゃない。
リバイバルなんかでもない。
今行われているリアルな行為。
これが私たちの新しい歴史の始まりなのだと、思い知らされているみたいだ。
無言でお互いの体にしがみつき、もう一度唇を重ねる。
無遠慮に侵入してきた彼を拒む理由などどこにも見つからない。
お互いの息づかいと布が擦れる音、そしてシートが軋む音。
口内で響く水っぽい音に、時折自分の鼻にかかる声が混じる。
遠くでステレオから流れるBGMが鳴っているが、耳にはほとんど入ってこない。