くるまのなかで

三人は私が隠れている車の前を通り過ぎ、彼らのものと思われる車に荷物を積み始めた。

白のシルビアではなく、紫色の軽自動車だ。

普段は由美先輩が乗っているのだろう。

「こら、カズ。じっとしてろ」

奏太は慣れた手つきでチャイルドシートのシートベルトを締め、運転席に乗り込んだ。

由美先輩は助手席に座っている。

数秒後、軽自動車らしいエンジン音が響き、ゆっくり出口へと進む。

再び私の横を通り過ぎた彼らは、右折して見えなくなった。

……何、今の。

奏太、子供と手を繋いでた。

由美先輩と、洗濯の話をしてた。

結婚、してるんじゃん。

子供までいるんじゃん。

家族みんな、仲良さそうじゃん。

なるほど、先約って家族でここに来ることだったのね。

大事な家族との予定があるなら、私とのデートなんて、後回しよね。

ていうか、私って奏太の何なの?

『梨乃と一緒じゃない未来なんて、もう考えられない』

この言葉は、一体何だったの?


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