くるまのなかで
翌日、私はアウトレットで購入した新しい服を着て出社した。
中でも気に入っているのは、ネイビーのジャケットだ。
夏用の薄いものでも、ジャケットを着ると仕事をしようという気分になる。
「あれ? 梨乃ちゃん、今日はメガネ?」
奈津さんが変わらぬ笑顔で声を掛けてくれて、ホッとした。
「はい。仕事できる人っぽいでしょ?」
「うん。服も今日はいつにも増してカッコいいね。似合ってるよ」
「ありがとうございます」
本当は昨晩泣きすぎてまぶたが腫れており、それをごまかすためにメガネをかけてきた。
起きた直後よりは浮腫みも引いてきたのだが、メイクで隠せるレベルではなかったのだ。
思い出すと悲しくなるから、さっさと仕事に取りかかろう。
奏太のことを頭から追い出すには、仕事で自分を追い込むしかない。
これから迎える繁忙期に向けてやることはいくらでもある。
今日は何時間残業したっていい。
そう思って仕事に熱中していると、いつの間にか午後11時を回っていた。