くるまのなかで
母がああいう人だったから、私は幼い頃から
「私がしっかりしていなくちゃ!」
と思って生きてきた。
貧乏だからお金には厳しく、ワガママは言わない。
だから高校は東峰学園に特待生で入った。
片親で育ちが悪いと周囲にバカにされないよう、誰に言われずとも勉強したし、姿勢や箸の持ち方などにも気をつけた。
高校卒業以降は優等生ではなかったけれど、人並みに社会を渡り歩けるよう、辛い時も歯を食いしばって頑張ってきた。
私は絶対に母のようになってはいけない。
強く賢くなって、母を守らなければならない。
2月に母を看取って、彼女を守るという使命は果たされた。
これからは私一人でしっかり地に足をつけて、自分の幸せを探していこう。
そう思っていたけれど、血は争えないらしい。
青春時代の恋を引きずって、いいように利用され、都合のいい女になろうとしている。
私も母と同じ、バカでお人好しで騙されやすい女だったようだ。
「ここで発覚して、よかったのかもね……」
そう呟いて自分を励ますが、涙はポロリとこぼれ落ちた。
車と車の間で泣いている私を、通行人が訝しげにチラ見する。
私の手足は、まだ震えていた。