くるまのなかで
気持ちの整理がついたら、ちゃんと奏太と話をしよう。
そう思っていたけれど、奏太の口から真実を聞く勇気はなかなか湧かなかった。
メッセージを適当に返し、電話にも出ないようにしながら数日。
奏太は未だに毎日『会いたい』とか『声を聞きたい』と恋人らしい言葉を送ってくる。
私は送られてくる度に冷めた気持ちでその文字を見つめ、胸の痛みを深呼吸で発散していた。
しかしこの日、私の様子がおかしいと気づいた奏太から、とうとうこんなメッセージが届いた。
『梨乃、俺を避けてるだろ』
さて、どう返そうか。
私は携帯を持って休憩室のソファーに座り、大きく息をついた。
不自然に避け続けるのも、もう限界らしい。
そろそろ覚悟を決めなければならないようだ。
『バレてた?』
送信。返事は秒速で来た。
今日の宇津木自動車は暇なのだろうか。
『俺、何かした? ごめん、心当たりがない』
何かした?って……心当たりがないって……白々しいにも程がある。
『奏太、私に隠してることがあるでしょ』
送信。すぐに既読になった。
だけど、さっきみたいに秒速で返事は来ない。
まさか上手く騙していると思っている相手から、そう言われるなんて思っていなかったのだろう。
返事が来たのは、私がセンターに戻ろうと、席を立ってからだった。
『隠してることがあるのは事実。ごめん』
認めやがったよ。さすが奏太、潔い。
『さすがに混乱してるから、私の心が落ち着くまで会いたくない』
送信。これも、すぐに既読になった。
しかし私は彼の返事を待たずに仕事に戻った。