くるまのなかで

霊園近くの目立たない喫茶店だが、思いの外いい店だった。

軽食だけでなく、おやつにケーキセットまで食し、読書などしながらゆったり過ごしてしまった私が店を出たのは、午後5時過ぎ。

日は傾いているが、この地方では、まだまだ夕方というには明るい時間帯だ。

駐車場はいい具合に影になっている。

愛車のもとへ向かいながら、いつものようにキーのボタンを押す。

しかし、いつもの開錠音がしなかった。

「ん?」

おかしいなと思いながら運転席の扉を引いてみるが、案の定、鍵が開いていない。

キーが電池切れを起こしたのだろうか。

キレイに使っているつもりだが古い中古車だし、5月に故障もしたし、キーの電池くらい切れてしまっても不思議ではない。

私は車を購入して初めて、鍵穴にキーを挿して開錠した。

帰りにどこかのカーショップに寄って、電池の交換をしてもらおう。

キーレスで開けないとアラームが鳴るタイプの車でなくてよかった。

そう思いながら扉を開け、まだ熱のこもっている車内へ。

シートに座ってキーを挿し、エンジンをかけようと回す。

しかし、愛車はうんともすんとも言わない。

「……え?」

まさか、こんなところでまた故障?

何度か試してみるが、一向にエンジンがかかる気配はない。

「嘘でしょ……」

どうして? 一体何が起こったの?

ていうか、こういう時はどうしたらいいの?

頭をよぎる、彼の顔。

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