くるまのなかで
私が次に目を開いた時、世界は90度回っていた。
視界には見慣れた我が家の天井と物置にしているロフト。
そして高校時代にも見たことのない奏太の野性的な表情が、逆光でより印象的に飛び込んでくる。
ああ、まるで別人。
体格や顔つき、仕草、匂い。
今の奏太は、昔の奏太とは全然違う人みたいだ。
これは10年前の続きなんかじゃない。
今初めて体験する、未知の出来事だ。
「奏太」
「ん?」
「電気、消して……」
「嫌だ。消したら梨乃が見えない」
恥ずかしい、あんまり見ないで、でもやめないで。
全身を色んな気持ちが巡っている。
懸命に働いている心臓が壊れてしまいそうだ。
奏太に触れられたあらゆる部分から、溶けてしまうくらいに強い快感が駆け巡る。
それが頬でも、肩でも、手の平でも。
同じ感覚を与えたくて、私も彼へと腕を伸ばす。
触れて、撫でて、邪魔な衣類を剥ぎ、体温に溺れる。
壁寄りに置いた狭いシングルベッドの上。
せわしなく互いを求め合った私たちは、壁に手や足を何度もぶつけた。
ここが角部屋でよかった。
きっと薄い壁一枚では、これらの音を消しきれない。
だけどもしこの壁の先に住人がいたら、お互いに理性が働いて、もっと加減ができたかもしれない。