くるまのなかで
言葉の意味が、わからない。
私が殺したって、何それ。
「何言ってるんですか。私、モト先輩が亡くなったことさえ、最近まで知らなかったのに」
どんなに記憶を掘り起こしてみても、私はモト先輩の死に関わった記憶など全くない。
「何も知らないって、幸せね」
先輩は目に当てていたハンカチを外し、嫌味ったらしく告げる。
「どういう意味ですか」
「奏太のことだから、きっとコバリノには全部話してないんでしょ」
「全部って、何のことですか」
赤い目で不気味に笑みを浮かべる彼女から、妙な迫力を感じる。
きっと嘘はついていない。
話を聞くのが怖くなってきた。
「コバリノ、奏太がどうして急にあんたと別れたか、知ってる?」
「飽きたから、とか?」
私の回答を、彼女はバカにするように鼻で笑った。
あの時、奏太は理由なんて言わなかったし、私も聞かなかった。
ただでさえこの世の終わりのような絶望を感じていたのに、それ以上のショックを受けるのが怖くて聞けなかった。
先輩は赤い目で淡々と続ける。
「モトはね、奏太が紫陽花祭りの日にあんたと別れるつもりだって、知ってたの」
「奏太から聞いていたってことですか?」
彼女は小さくうなずく。
「少し前から相談を受けていたみたい。あたしはそれをモトから聞いてた。そして当日、別れたっていう報告も受けたの」