くるまのなかで
普通、女は好きな男に守られたいと思うものらしい。
しかし私はいまいちそれを理解できない。
好きな人が自分を守るために傷ついたり、犠牲を強いられる様なんて、絶対に見たくない。
だから守られる側より守る側の方がいい。
私がそういう話をすると、奏太は、
「俺だって、梨乃が傷つくとこなんて見たくない。梨乃は女の子なんだから、自分を大事にして。守るのは俺の役目。俺を犠牲にしていいんだよ」
と言ってくれたし、何かあったときは率先して私を守ろうとしてくれた。
けれど、奏太に何かあったら……と思うと、気が気でない。
自分のことより他人のことを優先してしまう彼は、不良グループのリーダーだったこともあって、よくトラブルに巻き込まれていた。
女の私では、さすがにケンカの加勢はできないけれど、別の方面から彼を守れるようになろうと決心は強固になっていった。
母と奏太を守るため。
それが全てのモチベーション。
だから奏太に別れを告げられたあの日、私は人生の目的の半分を失った。
しかし。
私はその代わりに夢を叶えるチャンスを手に入れていた。
私の夢のために、奏太は私を失った。
そんな奏太を励まして、モト先輩は命を失った。
そして結婚の約束までしていた恋人を亡くした由美先輩は、人生の目的の全てを失った。
私が得たものの対価があまりに重いことを知り、今、息をするのも辛い。
苦しくなって一気に空気を吸い込むと、全身の筋肉がガチガチになるほど自分が固く力んでいたことに気づく。