くるまのなかで

奏太が立ち上がったので、私もグスグス鼻をすすりながら立った。

指で涙を拭うが、またすぐにあふれてしまう。

ハンカチくらい持って車を降りればよかった。

こちらを向いた奏太が、私の側頭部にそっと手をそえた。

髪を通して手の温もりが伝わってくる。

「梨乃」

彼の親指が、私の涙を軽く拭う。

「ごめん……こんな顔見せちゃって」

無様な泣き顔など、彼にはもう二度と見せたくなかった。

きっとアイメイクが崩れた汚い顔になっている。

「謝るのは俺の方だよ。モトが死んだこと、本当なら俺が10年前に伝えるべきだったのに。今になってごめん」

私は首を横に振った。

ヘッドライトに照らされた花とネームボトル。

あたりには風とシルビアのエンジン音だけが響いている。

「やっぱり梨乃の泣き顔を見るのは辛いな」

奏太が苦しそうな顔をする。

そうだよね。

涙なんて見せられると困るよね。

「ごめん、すぐ泣きやむから」

私は慌てて涙を手で拭う。

その手を、奏太が握って止めた。

「いいよ。モトのために、泣いてあげてよ」

「……うん」

数秒、手を握られたまま見つめ合う。

涙がまた両目からこぼれた。

次の瞬間。

「抱きしめていい?」

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