精一杯の背伸びを
プロローグ











 夜だとは思えないほどの明るさに包まれていた。


 橋の下を流れる川は雪に埋め尽くされていて、冬を象徴しているようだ。


 辺りは音もなく静かで、雪を踏みしめる音と自分の息遣いが大きく感じられた。


 時折、風が吹き、マフラーが軽やかに揺れる。


 白い息が空に昇り、消えていくのが面白くて何度も息を吸っては、吐き出した。


 そんなことに気をとられていて、歩調が遅くなったのか。


 それとも危なっかしく見えたのだろうか。



「小春」


 
 隣にいた彼が手を差し伸べてくれた。

 
 だけど私はその手を取らずに彼を見上げる。

 
 夜ではあったが、オレンジ色の暖かな街灯と雪で辺りは明るく、彼の顔がはっきりと見えた。

 
 光の中で、彼が優しく微笑みかけていた。

 
 その光景がとても綺麗で、幻想的で、現実とは離れた世界にいるように思えた。


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