精一杯の背伸びを













 彼と手を繋ぐのが大好きだった。














 その大好きだった手を離したのは、翌年の冬の終わりだった。


 仁くんも私もようやく一つ歳をとり、新学期を迎える少し前だった。


 私はいじめられて、べそをかいていた。


 右手で目をこすりながらも、左手は仁くんと繋いでいた。


 途中、彼の同級生の女の子に会った。


 仁くんと彼女がなにやら話している中、私は彼の後ろに隠れていた。


 人見知りだったから。


 でも仁くんの手は離さなかった。


 そして、彼女が私に目を向けた。



「妹さん?お名前は?」



 そう言われた。


 私は何も言えず、仁くんが答えていた。


 そのまま彼女と別れ、手を繋いで家まで帰った。


 それ以降、彼と手を繋ぐことをしなくなった。


 妹。


 そう思われたくなかった。


 妹なんかじゃない。


 いつから彼に恋をしていたのかはわからない。


 だけど、これがはじまりだった。


 確実に。





















 繋いでいた手を離した瞬間が恋のはじまりだった。



















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