精一杯の背伸びを





 仁くんはひどく焦っていた。


 いつも冷静な仁くんが、汗だくで息を切らしていた。


 そんな仁くんを私はただ膝を抱えて見上げていた。


 そして、次の瞬間怒鳴られた。


 こっぴどく。


 私は大泣きした。


 わんわん泣いた。


 そのままの状態で手を引かれ歩いた。


 泣きながら何度も謝ったのに、彼のお説教は延々と続いた。


 いつも優しい仁くんなのに、ひどく怒られた。


 この後、お母さんにも怒られたけど、仁くんのほうが怖かった。


 仁くんは怒っていたけど、ずっと私の手を離さないでくれた。


 もう、夕焼けは地平線へと沈んでいた。


 辺りは暗かった。


 だけど、怖くなかった。


 暗くても、私の光はあったから。


 仁くんは怖かったけど。


 私が五歳、仁くんが十二歳。


 夏のキャンプ場での話だ。


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