精一杯の背伸びを



 本当は、毎回お弁当のおかずを作りたかったけど、どんなに酷い料理でも彼は食べてくれる。そのことを幼い頃の私も知っていたから、時々だけにした。



「今は黒焦げなんかにしないで作れるよ?卵焼きだって」



「今度卵焼きを作るなら砂糖じゃなくて塩にしてくれ」



 私は、嬉しくて何度も何度も頷いた。


 こんな些細なことで幸せを感じるのは、彼しかいない。


 彼と過ごせる時間が私の人生を鮮やかなものにしてくれる。


 早く夏休みを取れるようにと祈る私を、気が早過ぎると降りしきる雨がたしなめているようだった。





















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