精一杯の背伸びを

等価交換






 しかし、世の中に等価交換の原則が存在するのか、彼と数日一緒に過ごせる代償として、彼と会う機会がなくなった。


 あの梅雨の日以来、ただの一度だけ。


それも一時間だけでも何とか、と忙しい彼に頼み、軽い夕食をするという物足りないものだった。


 私が新しい生活に慣れてこれからは会えると思ったのに、本当にタイミングが合わないと大きなため息を何回吐いたことか。















 ただ幸いなことに、私には多くの時間を一緒に過ごす友達がいた。


 東京にきて多くの友達ができたがその中でもとりわけ親しくなったのは四人で、そのうちの誰かと一緒にいることが多い。


 その中でも一番早く出会い、一番多くの時間を過ごしている人とは空手サークルの飲み会で知り合った。


 飲み会が始まるとすぐに人が入り乱れて凄い騒ぎになっていた。


その雰囲気だけでもうんざりなのに、さらに私をうんざりさせたのは隣にいた先輩だ。


 お酒が入る前から私の肩を抱き寄せたりと馴れ馴れしかったが、お酒が入るとそれはさらにエスカレートした。


 最初は拒絶の言葉と肩に置かれた手を振り払っていたが、先輩の顔がさらに近づいてきた時、私はとうとう我慢できなくなり怒鳴ろうと口を開いたが…


 突然、後ろから口を塞がれた。












 それが、榊田君だ。


 周りが唖然とする中、彼は平然とお札をテーブルに置くと、私の口を塞いだまま引きずって行った。




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