精一杯の背伸びを





 放心状態だった私が正気に戻り、彼の家に駆け込んだ時には、案の定、空き家で彼の姿はなかった。

 
 何も言ってくれなかった彼に対して、悔しさや怒りで、

 
 二度と会わない。

 
 
 絶交だ。


 とお母さんの腰にしがみつき大泣きした。

 
 その泣き方は半径数十メートル内に家があったならば、善良な隣人でも苦情を言いに来たであろうほどの騒音だった。

 
 幸いなことに田舎で家と家との間隔が離れていたから、ご近所トラブルは免れた。

 
 そんな本気か冗談かわからないことをお母さんは言っていた。


 しかし、泣いて喚いて幾日か経過した後、私は冷静になった。

 
 そして、気づいたのだ。

 
 彼の態度は当然だったことに。


 なんせあの時の私は十一歳で彼は十八歳。


 相手にされるはずがない。


 そのことに気づいた時、それなら成長したら、彼に相応しくなったら。


 手を引かれて歩く子供じゃなくなれば。


 そう思った。



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