精一杯の背伸びを




 どうして、不満ばっかり溜め込んでしまうのだろう?


 本当は素敵なことだってたくさんあるはずなのに。


 不満ばっかりが積もっていく。


 仁くんは綺麗になったって言ってくれた。


 料理だっておいしいって。


 強くなったって。


 どうしようもないほど嬉しかったのに。


 その気持ちを保ち続けることが出来ない。


 不安になっていく。


 不満が積もっていく。


 私はどうして良いことに目を向けられない?
















『えっ……ダメになったってどうして!?』



『仕事なんだよ。ごめん』



 私は机の上にある卓上カレンダーを手に取った。


 一週間。


 仁くんとの会う約束をした日まで一週間ある。



『一週間後だよ?それまでにどうにかならないの?』



『どう頑張っても終わらない。師走で忙しいんだ』



『だからって約束はだいぶ前からしてた!』



 私は不機嫌さを隠さずに彼にぶつけた。


 もう頼んでも無駄なのはわかっていた。


 会えないとわかって、不満が口をつく。



『それは本当にごめん。埋め合わせは必ずする』



『いつ?』



『いつって……それはまだわからない』



『仁くんが約束破ったんだから、ちゃんと決めて誠意見せてくれても良いでしょ?』



 意地悪を言っているのはわかる。


 でも当然だという気持ちも同じくらいある。



『わかった。二週間後。今度は約束守るから』



『遊園地連れて行って』



『ああ。わかった。本当にごめん』



 その後すぐ、仕事があるからと電話を切られた。


 もう夜の九時なのにまだ働くところを見ると、忙しいのは十分にわかった。


 お盆以降の仁くんはどうかと思う。


 私が怒るのも当然だ。


 映画を二度観に行ったら、どっちも始終寝て終わり。


 それならと、私は考えた。


 何か珍しい展覧会がないかと。


 小夜ちゃんが持ってきてくれた展覧会の情報の中に期間限定の展覧会があった。





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