精一杯の背伸びを






「仁くんはいますか?」



「あっ!ごめんなさい!私ったら玄関で。寒いですよね?入ってください」



 また、わたわた慌てだし、玄関にスリッパを出した。


 やっぱり何も答えてはくれない。


 私はとりあえず靴を脱いで上がることにした。


 仁くんと会う時はたいてい踵の高い靴を履く。


 一生懸命練習してようやく歩けるようになった。


 脱いだ靴を隅に寄せると、目についたのは。


 彼女のものと思われるぺったんこの靴。


 それがひどく対照的に思えた。













 彼女が玄関に背を向けて歩き出した。


 それを確認してから左右逆に置かれたスリッパを直し彼女に続いた。


 この展開に心の中だけでこっそりため息を吐く。












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