~Still~
第五章

許せない過去

◇◇◇◇

「エレナさん!」

星霜百貨店から出てきた颯太は、体を斜めにして、人混みからエレナのスラリとした姿を見つけた。

百貨店の壁に身を預けたエレナは、数メートル先から自分を呼ぶ颯太を見つめると、慌てて唇に人差し指を押し当てた。

たちまち颯太は怪訝な顔になり、首をかしげる。

エレナは、そんな颯太を一瞥すると、彼との距離を詰めず、独りで交差点を渡り始めた。

一体、なんなんだ。

颯太は慌てて後を追うが、人が多すぎて思うように追い付けない。

「エレナさん!」

颯太がようやくエレナの腕を掴めたのは、彼女が長い横断歩道を渡りきり、南に体の向きを変えた瞬間であった。
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