愛の答
XXX
ここなら、どうだろうか?欲望の世界は反映される?そもそも、面倒なんだよ。じゃあ、聞くけど....愛って何?何か、説明するのも嫌になる。誰?愛とか、そういう形のない物を大切にしようなんて言った奴は。愛とか、恋とか、そういう次元じゃないんだ。言葉で済まされる程簡単なことじゃないんだ。今は....助けたい。何よりも、二人を。『施設の職員から聞いてないのですか!?』『....具体的に何を?』私は愕然とした。『栢山さん。あの子は生きられません』『そりゃ....幼子の身だ。至る所に警察官を配置させ、捜索させている』『いえ』何というか....もう....『遅い』『?』『XPという病を御存じですか?』『いや、初めて聞いたが....その子が?』私は一度頷く。栢山は下唇を人差し指でなぞりながら、言葉を探しているようだった。『....病の説明をしている暇なんてありません。今すぐ、私の身を自由に....今日一日だけと期限を付けても構いませんから!』『それは出
来ない。ただでさえお前の罪を闇に葬ろうとしたんだ。これ以上腐った真似は出来ない』『自分の責任とあの子の命どちらを取るのですか!?』私は勢い良く怒鳴り付けた。『
....お前が心配しなくても我々警察は』『いいわ。病の説明をさせてもらいます。はっきり言います。酷のようだけど、あの子はもう生き絶えていると思う』『....随分と冷たいな。根拠は?』『冷たいも何も....外では生きられない子なのだから、当然そう考えます』『生きられない?』『XPという病は、皮膚の病気で、一般人より極度に皮膚が弱いんです。日焼けをしたい際、黒くなる現象。あれは軽度の火傷なのです。一般人ならば、皮膚細胞が治癒の働きを行い、元に戻りますが、XP患者は戻らない。つまり、太陽の陽を数分浴びただけで、大火傷の状態。死に至ります』『....』『二千翔ちゃんはこの陽射しの中彷徨っているわけです。つまり、もう手遅れと考えるしかないのです』『....』『....』『....』『....何ですか?何黙り込んでいるのですか!?あなたなら的確な判断が可能なはずです!その判断とは、二千翔ちゃんと面識のある私を捜索員として抜擢することです!違いますか!?』『....それは、出来な
い』『....
』歯痒さなんて言葉じゃ抑えきれない程の衝動。雑念をとっぱらった、純粋な心。故に、この国では通用しない。要は、私は正式に警察官という職務を失っており、なおかつ罪を犯したせいで刑務所に入る予定になっている。こんな人間を自由に出来る程、この国は甘くはない....『黙って....私にひたすら黙ってあの子の遺体を待てと言うのですか?』仮にも、一度愛を感じた子を....            十二月十九日。正午。太陽はフルパワーで活動。私は、活動したくても出来ない罪人。目の前に用意された昼食。一つも箸を付けることはなかった。我が子、愛は病を持つ。数十億人いる人類分の一人という、とてつもない確立で背負った病。病名さえない。今、どこで、何を?私を覚えていないのはわかっている。それでも、もう一度だけこの手で。ふと、愛の双子では?と、勘違いさえしてしまった二千翔。あなたとの面識は、ほんの数分だったけれど、無性に思えたんだ。あなたを育てていきたい。親御さんの消息が掴めない今、あなたを私が育てたい。そん
な夢物語。留置場に一人、私は自分を恨んだ....
二人とも、どうか無事でいてね。全く頼りのない母親だけど、誰よりもあなた達を愛せる自信があるから。            時を優しく包むように、過去は永遠のものにはならない。風が思い出を運んでくれてきそうな錯覚に陥る。現実は....ただ冷たく、肌に刺さるだけ。誰も過去を永遠のものには出来ない。    拓也の話    沙梨が施設を抜け出してから数日が過ぎている。もう、一人きりの夜を幾度経験したことか....もう、手遅れ。それを拒絶した。しかし、感情とは矛盾しがちなものであり、今日中に沙梨を見つけなければ手遅れになる....そんなことを考えていた。つまり、まだ生きていると。俺も深雪もそう深く信じていた。しかし、現実に沙梨はいない....。十二月十九日。PM六時。寒さが強くなってきた。今すぐにでも、暖めてやりたい。【ここはどこ?】【どうして一人なの?】【何でこんなに寒いの?】【寒いって....何?】今なら、お前の問いを全て答えてやる自信がある。全て答えてやるから、俺達の元へ一刻も早く
帰ってきてくれ。二人は、ただただ無言で沙梨を探した。沙梨がいそうな場所なんて想像つかない。公園?湖?....
木の裏に?林か?下手したら、深い森の中?『....拓』『....何?』『沙梨ちゃんはもう』『言うな!』『....』俺の鼓動が必然的に早くなった。それは駄目だ。そうだろ?『黙ってろ。会話なんていらない。何も、言うな』言わないでくれ....深雪、俺はお前がいるから立っていられるんだ。『沙梨ちゃんはもう』『黙れよ!』やめてくれ....『もう、家にいるんじゃないのかな?』泣きながら深雪はそう言った。俺は深雪が言った言葉が頭に入らなかった。今は何も聞きたくなかった。『もう、家にいてさ....誰もいなくて、玄関前で一人で泣いてるんじゃないのかな?』『....』『違うかな?そんなに、うまくいかないものかな?』深雪が混乱している。それも、極度に....そんな話、あるわけない。『....
深雪、お前あれだよ。俺なんかよりもずっと深く考えてるから疲れてるんだ。精神的にも、もちろん肉体的にも。一回、家戻るから。少し休んでろよ。俺はもう少し探してみるからさ』『嫌!』そう言うと思った。俺が何と言おうと、深雪は沙梨を探し続ける。それくらいわかってる。けれど、俺から見ても一目瞭然だった。精神的にも、肉体的にも深雪は疲れ切っている様子だった。このままじゃ、深雪まで失ってしまう。そんな気がした....。『わかった。二人で探そう。ただ、一回家に帰ってみよう。可能性がある以上、確かめないと』深雪が一度だけ弱々しく頷いた....。
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