伸ばした腕のその先に
零宵  望まない陽暮れ
 春も半ばを迎え、日をおうごとに季節は彩を強めていく。
 葉は青々と生い茂り、日ざしは強まり、夜は短く昼は長い。
 そんな色鮮やかな景色の中で、少しだけ熱っぽい風が頬をなぜた。

「ごめん、少し間が空いちゃった」
 湖畔にかがみ込み、そっと手に持った花束を供えおく。
 びくりと、私の中に鈍い痛みが走った。

 私が退院してから、すでに数ヶ月。身体に残る傷痕も薄くはなり、いわれなければ気づかない程度になっている。
 けれど、まだ身体を動かすたび、傷は私を責めるかのように疼いてくる。
 まるで、深いところまで沁みこみ、どこまでも響いていくように。

 私は目を瞑り、痛みが通り過ぎるのを待つ。
 そして、その後に献花台を訪れた大抵の人がそうするように、さめざめと涙を流し、流れた滴を自らの手で拭っていく。

(陽、くん)
 いなくなってしまった大切な人の名前を、そっと胸中でつぶやいた。
 名前は、洞穴に反響する音のように、しんしんと響いていった。
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