午前0時の恋人契約



「今日雨降るなんて言ってなかったのに……」

「急な雨だしすぐやむだろ。少しここで待つか」



ちら、と隣を見れば、貴人さんの全身も雨でびっしょりと濡れており、セットされていた黒い髪もすっかりお風呂上がりのようだ。



わ、色っぽい……って、そうじゃなくて!

濡れた肌から漂う色気に見とれそうになる気持ちをしっかりと保ち、慌ててバッグからハンカチを取り出し貴人さんの顔へあてた。



「気休めにしかならないかもしれませんけど……よかったらこれで拭いてください」

「俺より自分拭けよ。俺はスーツだからそんなに濡れてないけど、お前は……、」



すると、貴人さんは言いかけた言葉とともに私へ視線を留めると、顔を背け着ていたスーツの上着を脱ぎ始める。



「どうかしましたか?」

「……いいから。俺のジャケット羽織れ」

「へ?」



もしかして、と自分の服を見れば、今日の私の服……白いプルオーバーのブラウスは、薄手だったこともあり、雨に濡れ体に張り付くようにして透けてしまっている。

けれど、透けて見えているのは下に着ている白いキャミソールで、下着は全く見えていない。



「大丈夫ですよ、キャミソール着てますから」

「下着もキャミソールも同じようなものだろ。いいから、ほら」



それでも貴人さん的にはダメらしく、脱いだ黒いジャケットをそっと私の肩に羽織らせた。



「……ありがとう、ございます」



こういうところも、優しいなぁ。それを受け取り羽織り前を閉じると、ようやくその顔はこちらへ向く。

まだ私たちの目の前には、ザアザアと雨が音を立てて降り続けている。



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