午前0時の恋人契約
12.コイ ニ オチテ





6月の、梅雨目前の爽やかな晴れ空。

紺のスーツに身を包み、キュッと締めた深緑色のネクタイに若干の窮屈さを感じながら、今日も朝のオフィス街を歩いた。



少し早めの時間のこの街には、まだ動き出す前の静けさが漂い、結構好きだと思う。

スタスタと歩いてついた、小さなオフィスビル。いつものように自然とフロアへと向かえば、そこには既に姿がひとつある。



「おはよう、早いな」

「あっ、おはようございます」


声をかければ、こちらを見た途端ぱぁっと明るい表情を見せたのは、彼女……すみれだ。



長い前髪を真ん中で分け、染めた様子のない黒い髪を毛先だけゆるく巻いている。

本人は『幸の薄い顔』と言っていたけれど、色の白い肌とアーモンド形の目が、薄い化粧でも充分すぎるほど綺麗な顔立ちをしていると思う。

白いレースのカットソーに、薄ピンク色の少しタイトなスカート、と服装も決して派手ではないけれど、ほどよい華やかさがあっていい。



そのまま自分のデスクにつき茶色い鞄をおけば、フロアの端ですみれは小さな花瓶に花を飾る。

小さな青い花がよく似合うその姿に、自然と穏やかな気持ちになる、いい朝だ。




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