強引な彼との社内恋愛事情



お財布片手にひとりでランチに行こうかと思っていたときだった。


「千花(チカ)さん」

と親し気に私を呼び止める声がしたのは。


振り返ると、ニコニコと笑う広重一幸(ヒロシゲカズユキ)が立っていた。

彼とは同じプロジェクトだが、チームは違うし、フロアも違う。

入社も来月で二年目だからか、若いねって感じでたまにこうやって話す程度。


「今から昼飯ですか?」


「ああ……うん」


「一緒に行きましょうよ」


「うーん……まあいいけど」


「さっき、田原さん昼誘ったら今日から弁当とか言われて断られちゃって」


その一言にズキリとする。


広重は田原さんと仲がいい。
たぶん、彼の人懐っこい性格のせいか、可愛がられてるみたい。


だから、たぶん。
田原さんが結婚することも、私が知る前から知っていたのだと思う。


私なんて、さっきフロアでお祝いの言葉をかけられている姿を見て初めて知ったというのに。


田原さんとは話すときは話すし、冗談だって言い合える。
だけど、彼のプライベートのそんな深いところまでは知らなかった。

だから、私から訊かれるまで言うつもりもなかったのかもしれない。
< 5 / 102 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop