ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
響さんはチラッと呆れたような瞳を私に向ける。


「仕方ないだろ。優しく怒るなんて器用な芸当、俺には出来ない」


不機嫌な声に、嫌でも身体が硬直した。


「や、やっぱり怒ってますよね。
……みんなの前であんなこと言って、本当にすみませんでした!
反省してます、だから、お願い、離して下さいっ……!」

「あ~~、うるさい。いいからちょっと黙れ!」


声に苛立ちを感じた瞬間、グイッと腕を強く引っ張られた。


響さんは非常階段のドアを開けている。
そこに思いっきり引き摺りこまれて、私の背後で重い防火扉がバタンと音を立ててしまった。


その音に気を取られている隙に、私はドアに背中を押し付けられていた。
慌てて顔を上げて振り仰ぐと、響さんは私の身体の横に腕をついて顔を俯ける。


囲い込まれている体勢に、いきなり心臓が騒ぎ始めた。


「……怒ってるのは、そんなことじゃない」


頭上から降って来るちょっと掠れた声に、短く聞き返す。
響さんはその体勢のまま、そんなことじゃない、と繰り返した。


「なんで俺が、今でも中谷のこと好きじゃなきゃいけないんだよ!?」


不本意だ、と言いたげに声を張り上げて、響さんは強い視線で私を見つめた。
その真っ直ぐな瞳に、私の鼓動は加速する一方だ。


「だ、だって……」

「清水から何をどう聞いたか知らないけど、もう三年前のことだ。
俺は中谷と別れて、萌と結婚した。それがお前もよく知ってる今、だろ」


畳み掛けるような言葉に、素直に頷いてしまいそうになった。
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