ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
掠れて聞き取りにくかっただろうに、神父さんは特に気にした様子もなく、そのまま式を進行させる。


「デハ、誓いのキスを」


その言葉を聞いて、一瞬ドクンと心臓が騒いだ。
そのまま加速度を増す私の鼓動なんかお構いなしに、向かい合ったタキシード姿の長身の彼が、視界を隔てていた薄いヴェールをゆっくり持ち上げた。


一歩近付いたその姿に私はおずおずと顔を上げる。
クリアになった視界は、彼の顔でいっぱいになる。


いつもの洗練されたスーツとは違う白いタキシードも良く似合っている。
天然の焦げ茶色の髪は、いつもと違う形にセットされている。
私よりも頭一つ分高い位置から、伏せがちの目で私を見つめているのがわかる。


気遣われてる……ような気がした。
私は強張った表情を打ち消すように、必死に笑みを浮かべた。
緊張を隠すようにギュッと固く目を閉じる。


ドレスのせいで剥き出しの肩に、大きな手が載せられた。
そして、軽く引き寄せられる感覚。


その一瞬で、なんだかいろんなものが頭の中を走馬灯のように駆け巡った。


少しずつ、近付いて来る気配を感じる。
狭まる距離と比例するように、胸の鼓動は一層強く打ち鳴る。
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