ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
ついドキッとして立ち竦む私を気にせず、おじ様……いや、お義父様はスマートに立ち上がると、私に向かい側の席を勧めてくれる。
店員さんが椅子を引いてくれて、私はお義父様の正面に座った。


今年で五十五歳のはずだけど、いつもにこやかで明るくて実年齢よりもずっと若く見える。
メタボなんて言葉とは無縁なスマートな体型。
オーダーメイドのダークグレーのスーツがとても良く似合っている。
そして、左の襟元の弁護士バッチ。


どこまでも洗練された上品な大人の男。
きっと響さんもこんな風に年をとるんだろうな、って想像出来る。


「す、すみません、お義父様。……あの、お昼ご一緒するの、久しぶりですね」


そう言って取り繕うと、お義父様は店の入口の方を気にするように軽く背を伸ばした。


「萌ちゃん、響は?」

「あ……。ちょっと遅れるかもしれないから、先に行っててくれってメールが来ました」

「なんだ。同じ会社なんだから、一緒に来るかと思ってたんだが」


どこか不満そうなお義父様に、私はただ首を傾げて見せた。
そして話題を変えるつもりで、持って来た紙袋から小さな包みを取り出した。


「これ、お土産です。響さんと私から」

「おや、私にまで気を使わなくてよかったのに」


お義父様はそう言いながら目を細める。
私の手から包みを受け取ると、開けていいかな?と断って、包装を解き始めた。


小さな箱を開いたお義父様の口が、お、と丸くなる。
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