ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
「それでいいんです。私は、響さんの家族にしてもらえただけですから」


私が響さんに求められたのはそういう役どころだから。
ゆっくり息を吐きながらそう告げると、清水さんは一瞬黙りこくった後、フッと笑った。


「献身的な愛だね」

「どうとでも言って下さい」

「それじゃあ萌ちゃんは、倉西が他の誰かに『恋』をしても、認めるんだ?」

「え?」


思いもしなかった言葉を耳にして、私は思わず清水さんを真っ直ぐ見つめた。


「ああ、ごめん。『恋』じゃないか。どういう経緯か知らないけど、倉西は君と結婚した。
これから始まるとしたら、どういう感情でも『不倫』だ」

「ふ……」


さすがに自分の口からは言うのを憚ってしまう言葉だった。


「でも、萌ちゃんはそれを黙認するんだ。一人占めしないって、そういうことだろ?
なるほどねえ……それじゃ、誓いのキスを誤魔化すのも当然か」

「っ……」


サラッと言われたからこそ、グサッと心に突き刺さった。


「面白い関係だね。まあ、君も言う通りお互い様なら、それでもいいのかな」


それ以上は聞いていられずに、私はガタンと音を立てて席を立った。


失礼します、と頭を下げて、まだ半分以上残っている定食のトレーを手にしてテーブルに背を向ける。


頭の中では、清水さんの言いたいこともよくわかっていた。


恋心のいらない夫婦関係。
もしも響さんがそれを求める時が来たら、私は他の誰かの存在を許容しなければいけない。


どんな経緯でも、まだ新婚なのに……。
そんなことを考える自分が、なんだか切なかった。
< 51 / 224 >

この作品をシェア

pagetop