知ることから始まるんだ!
優しい兄と嫉妬
翌朝、明日奈は電話のベルで目が覚めた。

寝ぼけた耳でも、誰かがやってくることはわかる。


「そうか、厄介な案件だな。
それで、・・・はぁ!二人目がぁ?それは困ったな。

ふむ、智香さんのお母さんがきてくれるんだな。
わかった・・・智樹は俺が預かるよ。
大丈夫さ、智樹はおまえに似ておとなしいからな。
じゃ。いつでも用意してきてくれ。」


「あ、あの・・・誰か来られるんですか?」


「おはよう。あ、うん・・・甥っ子がね。
俺の弟の芳樹が・・・弁護士をしてるんだけど、ちょっと厄介な仕事をやることになってな。
そんな折に、奥さんの智香が2人目を妊娠して、つわりがひどくてつらいらしいんだ。
それでしばらく、ひとり息子の智樹をここで預かることにした。

おとなしいヤツなんだけど、子どもだし、君にも迷惑をかけるかもしれないが・・・。」


「いくつの子ですか?」


「まだ2才だ。もうすぐ3才かな。かわいいぞ。
あ、でも君はいつもどおり店に出ていてかまわないから。」



「はい。あっ、わ、私朝食作ります。
昨日してもらってばかりだし、そのくらいさせてください。」



「じゃ、よろしく頼むよ。
じつをいうと、少し手が痛くてね。」


「私のせいですね。すみませんでした。
すぐ、ごはんしますから。」



朝食時も明日奈が出かけるまでも、幸樹はいつもと何ら変化はなく、いつもと同じように研究に没頭しているのを見て、明日奈は少し、自分は厄介な同居人なのだと思って出かけた。


しかし、明日奈がいつもより早めに帰宅したその日、玄関に話に該当する訪問者の姿を見て驚いた。



「小さい子がたったひとりで?」


「あっ、おねえちゃんが明日奈なの?」


「どうして私のこと?」


「ぼく、賢いからパパやママからきいたことけっこうわかるんだ。」


(3才直前の子どもとは思えないほど、ませた子どもだ!
もう幼稚園に通っているといってもいいくらい、ううん、幼稚園に通ってる女の子なみに鋭いわね。)


「パパやママがなんて私のことを言ったの?」


「幸樹おじちゃんとこにいるきれいなおねえちゃん。
幸樹おじちゃんとおねえちゃんがぼくのことで喧嘩しないようにしなさいって。」


「はぁ?」


「幸樹おじちゃんにとっておねえちゃんは高嶺の花なんだから、ぼくはキュービッドにならなきゃいけないんでしょう?」


「ちょ、ちょっと待ってよ。
私はここのお部屋を借りてるだけの・・・あなたのおじちゃんは私の大家さんなだけなの。
だから変なこというのはやめてよ。」


「だってぼく、ここに女の人が住んでるのを知らないよ。
ここに住んでた女の子って幸太郎の姉ちゃんくらいしか知らないもん。」


「こ、幸太郎のねえちゃんって??」


「うん、新しい飼い主が現れるまで幸太郎といっしょにいたみどりっていうカメレオンの姉ちゃんだよ。」


「ぷっ!確かに女の子ね。」
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