アイザワさんとアイザワさん
「でも俺が好きだったのは、いつも一生懸命で、でも危なっかしくて、いつも笑顔で、涙を見せないお前だ。こんな、すべてを諦めて死んだような目をしてるお前じゃない。」
「……ほんとのお前は、どこに行ったんだ?」
私は答えることが出来なかった。
……答えられるような私だったら、今この場にはいない。
……考えろって言うの?
それがどれだけ残酷なことか知らないくせに。
心の箱が軋む。
ギシギシと音を立てて歪む。
開いた蓋から中身が溢れ出すように、
涙が目の縁にたまってまた溢れていく。
「残酷な人。」
それだけを辛うじて口にした。
「残酷なのは、どっちだよ。俺のことを思い出しもしないまま抱かれたくせに。」
相澤は皮肉めいた口調で私の言葉と感情をばっさりと切った。
あの日、俺は感情のない人形を抱いたんだ。
ずっと好きだった女にそんな仕打ちをされて平気な男がいるかよ、そう吐き捨てるように言った。
その後で、まるで独り言のように聞こえるか聞こえないかの小さな声でこう言った。
……逃げなかったから。だから思い出してくれるんじゃないかと期待してしまったんだ。
俺は……バカだ。
そう言った彼はとても悲痛な表情をしていた。