アイザワさんとアイザワさん

12月。
羽浦駅前商店街はイルミネーションが点り、赤と緑のカラーに彩られた街は一気に華やかなムードになる。


店内のBGMにクリスマスソングが流れ出すと、決まって私は切ないような、もどかしいような、どうしようもない焦燥感に襲われる。


いつもの年なら、鞠枝さんや源ちゃんがそんな私を気遣って気晴らしに飲みに連れていってくれたけど、そろそろ2人に甘えられないのは分かっていた。


……いつかは、一人で乗り越えないといけない事なんだ。それは分かってる。


それに今はもう一つ私の心を悩ましていることがある。


……もちろん、目の前にいるこの男のことだ。


私はこの人に『好きだ』と言われた。

でもこの人が好きなのは、どうやら昔の私のようだった。


あまりにも悲痛な顔で言うから、私はそれ以上言葉を重ねることができなかった。


あなたと目も合わせてもらえないのは、話もできなくなってしまうのは……寂しい。と思う私の気持ちも伝えられないままだ。


ずっと『あなたは誰?』と思っていた。

その答えはもう出ている。


相澤の告白がきっかけとなって心の蓋はあっけなく壊れた。絶え間なく流れてくる過去の記憶と私は今闘っている。


相澤と話をしなければいけないのは分かってる。

でも、気を抜くと過去の記憶が巻き戻されて簡単に揺り動かされてしまうので、私はまだ相澤にも、自分の気持ちにもきちんと向き合うことができずにいる。


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