理屈抜きの恋
場所に似合わないおしゃれな感じにバスを待っている女性たちがざわつく。
その中には「〇〇さんじゃない?」と言う声が聞こえたから地元では有名な人なのかもしれない。

ただ、このままここに車を停めていてはもうそろそろ到着するバスの邪魔になる。
注意しようかと一歩前に出ると、男性の方から私に近づいて来た。

「おはよう。朝早くからご苦労様。」

労われる覚えは更々ないけど、なんとなく聞き覚えのある声に顔をしかめると、男性はサングラスを取った。

「俺だよ。」

「あ!鵠沼さん…でしたか。お、おはようございます。」

「バス停に神野さんがいて驚いたよ。書類届けに来てくれたの?」

「は、はい。」

秘書の方に、と言われているけど、書類の宛名は鵠沼さんだ。
でも、ここで渡すわけにはいかないし、どうしよう。

「乗りなよ。一緒に行こう。」

「でも…」

鵠沼さんに最後に会ったのは告白をされた日だ。
副社長とのキスシーンだって見られているし、正直、ここで会ったことでさえもすごく気まずい。
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