理屈抜きの恋
コクっと頷いてはいるが、おそらく最上の強い想いに押されて周りが見えなくなっている。
元々、集中すると周りが見えなくなってしまう癖があるのだが、それが今、顕著に現れている。

確かに俺自身、あの最上の想いを目の当たりにして気落ちしたくらいだ。
撫子の中で最上の存在が大きくなり、俺がただの上司という認識にしかならなくなってしまっている可能性は低くない。

二人にするんじゃなかった。

「撫子。こっちを向いてくれないか?」

優しく話かけると、すぐには反応しなかったが、ゆっくりと顔を向けてくれた。
そして撫子の顔を両手で包み込むと焦点が合った。

「え?本宮副社長?!いつからそこに?!」

やはり俺を認識出来ていなかったようだ。
でもそれを怒ることはしない。
優しく頬を撫で、そして抱きしめる。

「涼でいいよ。」

「涼…さん。突然、どうしたんですか?」

その質問には答えず、ただただ撫子を抱き締める。
君を想っているのは最上だけではないのだと分かるように。
自分の存在を意識して貰えるように。

「撫子。」

「はい。」

「今日のこの後の予定は?」
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