理屈抜きの恋
『ジンノナデシコ』

帰国直後、祖父の口から聞かされた女の名前。

そろそろ結婚を考えなければならない歳になってきていたのに、彼女の1人もいない俺を心配していた祖父が用意した縁談の相手の名前だと思った。
お嬢様みたいな名前だし。

でも、名前の後に続いた単語は縁談とは程遠いもの。

「専属秘書?そんなの俺には必要ありません。」

「必要ないだと?お前、本当にうちの会社を継ぐ気があるのか?」

祖父が会長を務める会社を継ぐことは幼い頃から決めていた。
『お前の親父のように自由にしていい』と言われた時期もあったけど、祖父が仕事している姿を間近で見ていた俺は、大学卒業後10年間は他社で経営のノウハウを勉強し、32歳になってから祖父の会社を手伝うと約束していた。
そしてその後の結果次第で社長に就任すると。

「俺は会社を継ぐためにお世話になった会社を辞めてきました。それは話しましたよね?」

「あぁ。だが、秘書が要らないとはどういうことだ?」

「俺は自分の管理位一人で十分出来ます。一人の方が気楽です。女性に色目を使われるのも嫌です。鳥肌が立ちます。」

そう伝えたのに、祖父は突然やってきた若造を社員が受け入れるかどうかを殊更心配した。
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