理屈抜きの恋
「仕事で見返してやればいいでしょう?」

そう強く言っても、社員を家族のように大切に想う祖父は、
「長年頑張って働いてくれている社員に対して不安要素は少しも持たせたくない」と言い、「そのために彼女を秘書に迎えたい」のだと言った。

「それならお聞きしますが、そのジンノナデシコという女性を秘書にすれば問題は起きないのですか?」

「そうだな。少なくとも一人で何でも出来ると言うお前一人で乗り込んでいくよりははるかにマシだろう。」

人を褒めることをしない祖父が手放しで認めるその女性に対して、大人げないけど嫉妬のような感情が生まれた。

「彼女は何者ですか?」

俺が興味を示したことに、してやったり顔の祖父に対して少しイラッとしたけど、彼女が俺より6つ年下で、総務課所属の入社5年目の平社員であることを教えてくれた。

「どうしてそんな一社員に目を付けたのですか?」

「それはな…」

祖父が理由を言いかけた時、来客があり、その後すぐに海外へと行ってしまったために、話す機会を逸してしまった。

でも、一度気になってしまうといても経ってもいられない性分の俺は、彼女がどういう人物なのかどうしても早く知りたくて、本来なら必要ない事前の挨拶を口実に会社へと出向いた。
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