理屈抜きの恋
視線を交えることだってほとんどない。
大体において基本は書類やパソコンに視線を置いている。
それが嫌だった。

当然、仕事をしているのだからそれが当たり前なのだけど、惚れている女がすぐ触れられる距離にいるのに視線も合わさない、私語も許されない、触れることも出来ないなんて、すごくもどかしかった。

だからパーティーに連れて行き、仕事とは違う場で彼女との接点を設け、彼女と向き合いたかった。

あのオーベルジュのレストランを見せてあげたかったのもある。

いつだったかレストランに行った社長が彼女に写真を見せて自慢をしていたことがあった。
その時の目を輝かせて「童話の世界みたい」と言いながら写真を食い入るように見ていた彼女の表情は忘れていない。

普段、さばさばとしていて男っぽい彼女でも、普通にお姫様に憧れる女の子なんだよな、と改めて感じた時だったから。

いつか連れて行ってあげようと思った。
恋人同士でも、上司と部下の関係でもいいから。

だから鵠沼からオーベルジュでパーティーを行う、との連絡が入った時、真っ先に思い浮かんだのは彼女だった。
本来なら同伴者など必要ないのにも関わらず、鵠沼に適当な理由をつけて彼女を連れて行くことを決めた。
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