【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
新しい陣羽織
 秀秋は十九歳とは思えない眼光
の鋭さになり、皆の顔を見渡して
話し始めた。
「わしは松野の申したとおり三成
殿に恩義がある。それと同じよう
に家康殿にもこの領地を戻しても
ろうた恩義がある。こたびは輝元
殿の命に従い三成殿に味方するが
いずれ家康殿にも恩を返すつもり
じゃ」
 それから秀秋は脇に置いてあっ
た新しい陣羽織を広げて見せた。
それは鮮やかな緋色の猩々緋羅紗
地に背中は諏訪明神の違い鎌模様
を大きくあしらっていた。
 秀秋は陣羽織を握り締め怒りを
込めひときわ大きな声で言い放っ
た。
「この緋色は朝鮮で流した血の色
じゃ。家康も三成もこの血の犠牲
をなんと思うて争うのか。わしら
は田畑を血で染め大地を殺すため
に生きておるのか。それともこの
鎌を握りしめ田畑を耕し大地を生
かすのか。世に問うて今こそ天下
を耕す時ぞ」

 輝元は伏見城にいる鳥居らに城
の明け渡しを命じた。しかし、鳥
居らはこれを拒否して籠城戦をす
る構えをみせた。そこで伏見城の
攻略軍が組織され総大将は宇喜多
秀家、副将に秀秋が決まり、毛利
秀元、吉川広家、小西行長、島津
義弘、長宗我部盛親、長束正家、
鍋島勝茂など兵四万人で向かっ
た。
 三成ら他の諸大名は家康の動き
を警戒するため美濃、尾張などに
向かった。
 伏見城に籠城している兵は千八
百人ほどだったが説得に応じる気
配はなく、城攻めにもてこずらせ
た。そこで義弘が持ち込んだ火箭
を使うことにした。この火箭は朝
鮮から持ち帰った火箭とそれを
作っていた朝鮮人の指導を受けて
日本の花火師に作らせたもので、
筒状の太い矢のような形をし、大
きさは人の背丈ほどで運びやす
かった。
 火箭を城に向けて火を点けると
火炎を噴射したまさしく太い矢の
ように飛んでいった。そして壁に
当たると爆発し大炎上した。その
威力はすさまじく三発で天守閣は
吹っ飛び、城の上部は炎に包まれ
た。これをきっかけに秀秋らの部
隊が城になだれ込み、籠城してい
た鳥居らは自刃して果てた。
 この火箭の威力を大谷吉継は
知っていたので漂着した船、リー
フデ号に積んであった火箭を事前
に全て分解して火薬を取り出させ
たのだ。
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