【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
東軍勝利
 戦場を抜け出た島津義弘の甥、
豊久は逃げる途中で東軍の部隊に
追いつかれ戦って討死した。そし
て阿多盛惇は義弘に成りすまし自
刃した。
 島津隊の千五百人の兵が最後ま
で残ったのは義弘を含め八十数人
という無残な状態だった。
 最初から戦っていた部隊が疲れ
ていたとはいえ、あれだけこう着
状態が続いていた戦いも、小早川
隊が出陣してわずかな時間で東軍
の逆転勝利が決定的になったの
だ。

 戦いの余韻が残る関ヶ原。
 三成が逃亡し、誰もいなくなっ
た陣営は荒れ果て、つかの間の勝
利に沸いた残像が消えていった。
 家康は少しとどまり、お茶を飲
もうとするが、手が震えて定まら
ずやっとのことで飲めた。
(かっ、勝った。これが惺窩の伝
授した兵法か。しかし、それを実
践したあの小僧、恐ろしい奴
じゃ)

 静かになった関ヶ原。
 草の葉にいたカマキリが蝶を捕
まえて食べた。
 風が草の葉を揺らした。
 家康は合戦後、藤川の高地に
あった大谷吉継の陣営に移動し、
諸大名の拝謁に応じた。
 集まった諸大名は鎧を脱ぎ、酒
を浴びるように飲み、誰もがあわ
や負け戦からの勝利に酔いしれて
いた。
 家康は次から次へと諸大名の祝
辞を受け、それに満面の笑みで応
えねぎらった。
「皆、無事でなによりじゃ。皆の
おかげで大勝利することができ
た。ありがとうな。ありがとう。
ありがとう」
 頭を下げる家康。
 一同は、天下を取った家康に平
伏すとまた騒ぎ出した。
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