【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
 満足そうな家康だが、目は怒り
に満ちていた。家康は不満だっ
た。戦いに勝利はしたが三成はま
だ逃亡している。なによりも三男
の秀忠がとうとう最後まで間に合
わなかった。
 この戦いは後継者に選んだ秀忠
の働きで一気に片をつけ、徳川家
の力を思い知らせたうえで天下に
号令しようと企てていたのだ。そ
の段取りが全て狂った。
 もとはといえば自分が家臣をせ
きたてるような発言をして勝ちを
焦らせ、秀忠の到着を待てなかっ
たのだが、年のせいか気が短く
なっていることに、この老人は気
づいていなかった。
 家康はお祭り騒ぎで気が緩んだ
諸大名の姿を見てため息をつい
た。そしてよく見ると秀秋の姿が
そこにはなかった。
(そういえば、秀秋はまだ挨拶に
来てないがどこにいるのか)
 家康は家臣を呼んで秀秋を探し
に行かせた。それと入れ替わるよ
うに別の家臣が来て、家康のもと
にひざまずいて告げた。
「秀忠様がご到着なさいました」
 家康が今、一番聞きたくない名
だった。
「わしは会わん」
 家康の怒りを感じた家臣は一礼
して、そっとその場を退いた。
 家康は怒りと情けなさに地団駄
を踏んだ。
 しばらくすると諸大名がざわつ
き始めた。
 怒りが少し静まりかけた家康の
耳に、諸大名のざわめきが気にな
り、皆が顔を向けている方を見
て、瞬間に表情が凍りついた。
「何じゃ、あれは」
 それは騎馬隊が整然と列を連ね
て近づいてくる様子だった。その
数、三百騎。
 騎馬隊の先頭には鎧を身にま
とった秀秋がいた。
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