【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
足利義昭
 九州では薩摩の島津氏と豊後の
大友氏の対立が激しさを増してい
た。
 島津氏の島津義久には室町幕府
の復興を狙う第十五代将軍、足利
義昭と西国の毛利氏が味方してい
た。
 大友氏は大友義鎮が家督を長男
の大友義統に譲ってはいたが、い
まだに義鎮が実権を握っていたた
め内部分裂を起こしていた。それ
に乗じて島津義久が大友氏の領地
に侵攻して、九州統一は時間の問
題だった。そこで義鎮は関白と
なった秀吉を頼った。
 秀吉は義昭の幕府復興を阻止で
きると考え、義久に降伏勧告をお
こなったが受け入れないため、毛
利氏と四国の長宗我部氏に出陣を
命じた。しかし、毛利氏は島津氏
に味方して大友氏とは敵対してい
たため協調した戦いができず大敗
した。そこで秀吉はまず大友氏と
毛利氏の和睦をさせようと考え
た。

 年が明けた天正十四年(一五八
六年)一月に秀吉は大坂城から京
御所へ黄金の茶室を運び茶会を開
催した。
 集まった公家たちは茶室の美し
さより秀吉の底知れない財力に圧
倒された。その中には足利義昭も
いた。
 秀吉は義昭に茶を振る舞い、豊
臣幕府の構想を聞かせ、暗に義昭
の幕府復興をあきらめさせようと
した。それに対して義昭は「豊臣
幕府をおこすには東国と関東を支
配する必要があり、まずは徳川
氏、北条氏を屈服させることだ」
と受け流した。
 秀吉は茶をすすりながら「もち
ろん近いうちに」と返答した。
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