【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
信長の偉大さ
 九州で一進一退の攻防が続く
中、大坂城に徳川家康が登城し秀
吉に正式に臣従を誓った。
 家康は民衆だけではなく公家や
天皇までも魅了する秀吉の巧みな
宣伝戦略に敗北したことを悟った
からだ。そして家康が大坂城でど
うしても見たいものが二つあっ
た。一つは組み立て式黄金の茶室
で、登城すると秀吉はすぐに天守
閣に案内し披露した。
 家康は黄金の輝きよりも短時間
に組み立てられる構造と出来上が
りの立派なことに驚嘆した。秀吉
が利休の点てた茶をすすめても気
がつかないほどだった。
(この茶室に短期間で築城する技
術の全てがこめられている。雑な
ところがひとつもなく強固さも兼
ね備えている。この城も手抜かり
がない)
 家康もすでに秀吉の宣伝戦略に
はまっていた。そしてもう一つの
見たいものにも翻弄されたのだ。
 次の日、家康が広間で平伏して
待っていると秀吉に伴われて五歳
になった秀俊が入って来た。
「家康、苦しゅうない。面をあげ
い」
 秀俊が口にしたそのぞんざいな
言い方は信長に似ていた。
 家康が顔をあげると秀吉の横に
公家風の装束を着せられた秀俊が
座っていた。即座に秀吉と秀俊の
顔を見比べた。
(小猿。やられたわい)
 家康は信長より秀吉によく似た
猿顔の秀俊に、今にも苦笑しそう
になるのを押しとどめた。思えば
この幼子に信長が転生したという
情報で振り回され織田信雄が動揺
して今に至っている。完全に秀吉
の宣伝戦略に敗北したことを実感
し改めて平伏した。秀吉や秀俊に
ではなく、いまだに残る信長の偉
大さにだ。
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