【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
茶々
 秀吉がひとしきり接待をして人
だかりがなくなりふと見ると、六
歳になった秀俊と二十一歳の茶々
が手をつないで楽しげにそぞろ歩
いていた。日々成長を見守ってい
た茶々が今日は一段と大人びた色
香を漂わせているように秀吉の目
に映り、五十一歳の心をかき乱し
た。
 秀吉はお供の者を呼び、秀俊と
茶々を連れてこさせた。
「金吾はどうじゃ、楽しんでおる
か」
 秀俊は浮かない顔をしていた。
「今日は宗易の話が聞けませんで
した」
 利休はあちらこちらの茶室に
引っ張り凧の大人気だった。
「でも御菓子をいただいたではあ
りませんか」
 茶々が優しく言った。
「御菓子をもろうたか。それでも
金吾は宗易の話がそんなに聞きた
いか」
「はい。御菓子の楽しさは食べて
しまえば終わりますが、宗易の楽
しい話は長い間残ります」
「ほう。で、どんな話を聞きた
かったのじゃ」
「堺の町人の話です。変わり者や
お調子者の話などつきることがあ
りません」
「ほぅほぅ。それはわしも聞いた
ことがないの。今度ゆっくり聞い
てみたいものじゃ」
「私も聞いてみたくなりました」
 茶々が笑って賛同した。
「もう足が疲れました」
 秀俊がしゃがみこんだので秀吉
はすぐに従者を呼び、抱かせて屋
敷に帰らせた。
 秀吉は残った茶々としばらく話
し込んだ。この時、秀吉は茶々を
側室にすることを決めた。
< 40 / 138 >

この作品をシェア

pagetop