【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
秀俊の思春期
 秀俊の生活は優雅なものだっ
た。読み書きや和算などの勉学は
難なくこなし、公家への作法や蹴
まり、乗馬などもすぐに覚えた。
やっかいなのは生活態度を厳しく
しつける補佐役、山口宗永だが、
常に監視しているわけではなく、
検地があれば秀吉に呼び出される
ことが多かったので。その隙に鷹
狩りに出かけては遊びほうけてい
た。そんな秀俊も九歳で早くも思
春期を迎えた。
 秀俊のような大名の子は毎日の
行事として朝夕にみそぎの湯を浴
びて神仏、祖先に礼拝していた。
このみそぎの湯浴びをする時は薄
い肌着だけの女官が世話をしてく
れるのだが、どうしても湯がかか
り、肌着が透けてうっすらと女の
裸体が見え隠れする。秀俊はこれ
に心をときめかせるようになっ
た。しかし毎日同じ女官では飽き
てくる。ちょうど京には諸大名の
妻子が秀吉の命令で住まわされて
いる。そこで秀俊は京の大名屋敷
を巡るようになった。
「汗をかいた。湯浴びを所望
じゃ」
 その声に飛び出した屋敷の者は
身なりの立派なかわいらしい子が
やって来ていたので、これは良家
のご子息だろうと快く湯浴びをさ
せた。そのうち関白の子、秀俊と
分かり、あちらこちらの屋敷に出
没するので話題になった。やがて
秀吉の耳にも入った。
 ある日、秀俊のもとに秀吉から
朱印状が届いた。日ごろの生活態
度を戒めた中に湯浴びは決められ
た女官の所でするようにと書いて
あった。そんな秀俊のやんちゃぶ
りはかえって庶民的な人気を呼び
「金吾かるた」などが売れられる
ようになった。
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