【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
 秀秋が慌てて逃げる朝鮮兵に襲
いかかり、後に続く騎馬隊も城の
周りに押し寄せ四方に散らばっ
た。
 秀秋は混乱の中から抜け出たか
と思うとまた突っ込み、馬をせき
たてて縦横無尽に駆け巡った。
 岩見の隊列と稲葉の隊列は二手
に別れてしばらくは連携せず無秩
序に攻撃した。
 城内では救援に来た日本軍の騎
馬隊が見えると気勢が上がった。
清正もその中にあったが、騎馬隊
の攻撃を見てつぶやいた。
「総大将の騎馬隊か。しかし、な
んじゃこの戦い方は。兵の統率が
まるでとれとらん」
 やがて清正のもとに秀秋の伝令
が駆けつけ、ひざまずいて秀秋の
言葉を伝えた。
「大軍の攻撃にもかかわらずよく
ぞ持ちこたえられた。それでこそ
天下に名を成した武士の誉れ。今
はゆっくりと体を休め、高みの見
物でもしておられよ」
 清正はただうなずくだけだっ
た。
 秀秋の部隊はまだ二手に分かれ
て攻撃していた。
 岩見が叫んだ。
「いまこそ小早川の武勇を示す時
ぞ。突っ込め」
 それに対抗するように稲葉がう
なった。
「奴らに遅れをとるな。豊臣の名
折れぞ。底力を出さんか」
 秀秋はそんなことを気にする様
子もなく、次々と敵兵を倒してい
く。
 いつしか秀秋のすさまじい戦い
ぶりに、遠巻きに散らばっていた
二つの隊列は、次第に秀秋につき
従うようになり歩調を合わせ、一
丸となって攻撃し始めた。
 黒田長政、島津豊久らの出遅れ
た日本軍もいつの間にか加わり、
秀秋の部隊と競り合うように敵兵
を倒していった。
 やがて追い立てられ劣勢になっ
た明・朝鮮連合軍は退却しはじめ
た。しかし日本軍にそれを追撃す
る余力はなく戦いは終った。
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